作品と解釈
No.1《時間と重力》
萄雅彦
観察・解釈 慧真 eshin
基本情報
作品名 《時間と重力》
作家 萄雅彦
制作年 1982年
技法 セリグラフ
寸法 87×57cm
掲載資料 講談社『萄雅彦版画集』No.1
保存済みの確認事項に基づき記載。
モントリオールの展覧会情報
現在開催中(2026年9月4日確認)
Une assemblée pour le cosmos
会場 Galerie de l’UQAM
会期 2026年9月4日〜10月17日
宇宙との関係を現代美術から考える展覧会です。
慧真 eshinの観察・解釈
1982年、87×57cm。画集の一番最初に置かれた作品である。
最初に見た時、私は「難しい作品だ」と思った。しかも、これが画集の冒頭に置かれている。なぜ、この作品から始まるのだろう。その疑問が、まず私を画面へ引き戻した。
黒い背景の中に、幾重にも四角形が重なる。板なのか、道路なのか、それとも空間そのものなのか。グラデーションを追っていくと、途中で方向が左右九十度変わったように見える。目の錯覚を使ったトリックなのだろうか。そう思う。しかし、それだけなら、なぜ題名が《時間と重力》なのだろう。
二つの球体を見る。そこで、私は影が気になった。それぞれに二つの影があるように見える。普通なら光源を考えるところだろう。しかし見続けているうちに、一つは影ではなく、ほんの少し前に球体が存在していた場所なのではないか、と思い始めた。
もしそうなら、私は一枚の静止した画面の中で、現在の球体と、その直前の球体を同時に見ていることになる。球体が移動している間も重力は働き続ける。二つの位置の間隔がほぼ一定に見えることにも、時間の刻みのような意味があるのだろうか。
ここで題名が急に近づいてきた。《時間と重力》。目には見えない二つの作用を、画伯は球体の位置、影、移動、空間の歪みによって見せようとしているのだろうか。
さらに板のような空間を見る。もし、この空間そのものが歪んでいたらどうなるのだろう。私は平らな空間を当然の前提として見ている。しかし、その前提そのものが正しいとは限らない。
淡い四角形は何層にも重なり、一部が黒い部分に隠されている。隠れているから、そこには何もないのだろうか。いや、私は見えない部分が続いていることを頭の中で補っている。見えないものが存在する可能性を認めなければ、画面を一つの空間として見ることすらできない。そのことに気付くと、作品を見る自分自身の認識まで問われているように感じる。
重なる四角形は、少しずつ時計回りに回転しているようにも見える。奥へ行くほど色は深くなり、やがて暗黒へ溶けていく。最初は黒を不安な空間として見ていたが、見続けると、恐怖だけではなく、深い宇宙の淵へ静かに導かれていくようでもある。
青い点描状の球体には、われわれが知っている世界とは別の次元、まだ知らない宇宙を感じる。そして重なる四角形から、私はピラミッドも連想した。ただし、この連想には後年、画伯自身からアトリエの外観を「ピラミッドと宇宙」を意識して設計したと聞いた記憶が重なっている。1982年のこの作品と後年のアトリエを直接結びつけてよいのかは分からない。
最初は「難しい」としか思えなかった。しかし、影を見直し、隠された空間を考え、題名へ戻るうちに、なぜ画集がこの作品を一番に置いたのか、その理由が少しだけ見えてきたような気がする。答えが分かったのではない。ここから先の作品で繰り返される、時間、空間、宇宙、見えるものと見えないものへの問いが、すでに入口に置かれているように感じるのである。
作品画像について
作品画像は、著作権を尊重し、現在は掲載していません。
記録と確認事項
- 情報源:講談社『萄雅彦版画集』。観察・解釈本文:慧真 eshin『講談社 萄雅彦 版画集 慧真の解釈集』日本語版(2026年8月31日修正版・確定入稿原稿)、本文1〜2頁。
- 直接証言:本文中のアトリエの設計についての記述は、後年、作家本人から聞いたという慧真 eshinの記憶です。
- 未確認事項:支持体・素材、エディション・サイン・年記、現在の所在。確認後に追記します。
- 作品の観察・解釈と、作家の意図についての確定事実を区別して記録します。
記録作成日 2026年9月3日
前の作品:この作品が最初です。
次の作品:No.2(準備中)
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